セルジュ チェリビダッケ指揮 ミュンヘンフィルハーモニー
[EMI TOEC9897-98]

 チェリビダッケは録音を極度に嫌った指揮者で、”演奏会場の響き方などによって演奏は毎回変わるのだから演奏会場で1回かぎりの演奏を聴くべきだ”という信念を持っていた方です。だからスタジオ録音は以ての外、残っているのは全てライブ録音(のはず)です。今までひどい録音の海賊版があまりに多くCD化されてきたため、チェリビダッケの演奏自体がひどかったのではと誤解されることを恐れた遺族が、きちんとしたものを遺しておくべきではないかとかなり悩んだ末に正式にCD化を許可した録音のうちの一つです。
 おそらく現存する最遅速の演奏ではないかと思います。本当に遅いです。特に第2楽章。山岡先生は、「僕の演奏はおそらく発売されているCDのどれよりも遅いと思うよ」とおっしゃっていましたが、さすがにこれより遅いってことはないんではないでしょうか。

ところがどっこい、山岡先生の最近の演奏録音を聴かせていただきましたが、少なくとも出だしはこれより遅いです。山岡先生の2楽章演奏時間は約23分でしたので、全体的にはこれより若干速めなのですが。山岡先生にちょっとした変更があれば、この演奏より遅いってこともあり得ますね。

だからといって、だれた演奏ということではありません。すばらしい演奏です。今までお勧めしているアバドやシャイーとはまったく違った毛色の演奏ですが、自分としては今まで聴いたなかで最も好きになってしまった演奏かもせれません。しかしあまりの遅さや、楽譜をいじっている(3楽章、ティンパニーのロールを四分音符の連打にしている部分がある。他にもあるかもしれません。)などの点で、特に初めて聴く人にお勧めするという観点からつけている”勝手にお勧め度”で最高点をつけるわけにはいかないですね。ただし、山岡先生の演奏テンポに近い部分が多いという点では他に並びうる演奏がないですので、山岡先生の演奏に備えるためという条件付き★5つ(暫定的)にしてみました。

 遅いことについて、もう一言。ヴァント/ベルリンも遅いほうに入るわけですが、なぜかヴァントのは1楽章頭や2楽章など普通は遅く演奏されるところがなぜか速くて、普通速めになるようなところがゆっくりめに演奏されるという特徴があるのですが、このチェリビダッケの演奏は、普通速めになるようなところがじっくりたっぷり演奏され、普通遅いところはその分だけさらに遅くなる。つまり、相対的な速度の比率を保ったまま全体に遅くなっているという感じです。
 その他全体的な印象はAUDIOR版と似ていますのでそちらを読んでみて下さい。録音はあちらより良好です。ただ、”1楽章出だしのトランペットや、4楽章練習番号Iから始まるフーガでテーマが次々にでてくるところなどで縦型アクセントが妙にテヌートされている”というのはこの演奏では無くなっています。この点、違和感がなくなって良くなった感じがします。